1球再生式ラジオ(1R−STD)製作記
原 恒 夫
1 はじめに
どんなベテランの方も、最初はビギナーとしてゲルマラジオや真空管の数の少ない入門用のラジオを製作しました。最初から実力に合わない複雑なラジオを作って、挫折してしまうのでは残念です。ここでは、初めて真空管ラジオの製作にチャレンジしょうとされる方に「おすすめ」のキットを紹介します。
2 回路と部品
真空管1本で、同調回路で選んだ電波を検波するだけでは感度が悪いので、回路を工夫した再生検波回路を使います。しかし、低周波増幅回路がついていないので、あまり大きな音を出すことは出来ません。そこで、感度の良いクリスタルイヤホンを使います。と言っても現在クリスタルイヤホンとして市販されているのは、クリスタルではなくセラミックが使われているようです。本物のクリスタルイヤホンはロシェッル塩という塩(しお)のようなものの結晶で、空気中の水分を吸収します。ですから製造してからあまり長く感度よく使うことは出来ませんでした。セラミック(焼き物)は、そのようなことがありません。しかし、本物のクリスタルイヤホンの方が製造直後は、セラミックを使ったものより高感度だったように記憶しています。
再生検波回路の大事なところは、再生コイルをどのようにして巻くかという事です。私はアンテナコイルにカソードタップをつけ、検波管にもって行くのが一番安定しているように思います。また、検波管の負荷をチョークにして大きな検波出力を取り出すことだと思います。高価なためチョークを省略して抵抗負荷にするとB+がドロップして検波管のプレートにはいくらも電圧がかからなくなります。これでは、どんなにいい検波管を使ったとしても感度を上げることは難しいのです。1R−STDでは、検波管の負荷に200Hのチョークを使っています。
配線図は、こちらです。
再生コイルの調整のポイントです。
再生のかかり具合をみてカソードタップの位置を調整します。調整のポイントは、50kΩのボリュームを回して再生がかかりはじめのところで6BA6のスクーリングリットG2の電圧を測ってみます。1V〜3V位で再生がかかりはじめるなら再生コイルの巻き数が多すぎますのでE端子から再生コイルをほどいてK−E間を2回巻程度にします。これでG2の電圧が10V〜15V位で再生がかかりはじめます。6BA6の場合、最も検波出力の大きくなるのは、G2の電圧が20V前後です。
3 製 作
このキットでは、シャーシーなどのベースは、2R−STDのものを使って、後で2球再生ラジオ(並三相当)にグレードアップできるようにしています。1球の場合低周波増幅管のソケットの穴が空いたいたままになりますので、美観上シールでふさいでおきました。
2R−STDに比べ、アウトトランスや低周波増幅管がありませんので、シャーシー裏のスペースはとても広いです。このため整流回路をゆったり組み込めます。それでは、主要部品をまず取り付けましょう。部品の方向は、回路を見ながら考えながら決めます。電源トランスは、うっかり触って感電が心配されますので高圧は内側に、外側に6.3Vの低圧端子が来るようにしましょう。スイッチを入れているのを忘れてトランスの高圧端子にさわって、ビリビリきて驚くことがあります。この程度の感電で大きな火傷などにはならにのですが、あわててシャーシーを落として部品を壊したり、反射的に手を動かしてとがったものにぶつけてけがをするなどを経験しています。
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トランスの高圧端子は内側にします | シールを貼って穴をふさぎました |
部品の取り付けが終わりましたらアース線を引き回します。私は、普段ビスナット留めを菊型座金など入れていません。組み立てた時はシャーシーとの接触でアースが取れていても、時間と共に接触不良になり、動作が不安定になったり雑音発生の原因となります。そこで、スズメッキ線でぐるっと主要ポイントをアース母線を引き回しています。
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アース母線の引き回しで |
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大きな画像は、こちらです。 |
4 製作を終えて
各部の電圧チェックももどかしく、早速3mほどの線をアンテナ端子につなぎ受信してみました。クリスタルイヤホンを耳に入れてみるとあまりにも静かなので電源スイッチを入れたのか不安で再確認してみました。平滑回路には、昔では考えられないような大容量の電解コンデンサーが2個も入っているのでハム音さえ全く聞こえません。しかし、バリコンを回してみますと「チュー」という再生の発信音を伴いながら結構いい音量で放送が聞こえてきました。再生方式の特性として周波数を微調すると再生のかかり具合が変わります。デリケートなので、50KΩの再生調整用のボリュームをゆっくり回します。「チュー」という再生の発信音が消えて音量の最高のところに合わせるのがコツです。欲を言えば周波数の低い方の再生をもう少し強くかけたいので、コイルのカソードタップを何段かに切り替えが出来るよう工夫すると良いかもしれません。
単級ラジオでも結構大きな音で聞こえます。それに音質もかなりいいではありませんか。秋の夜長を「単級ラジオ」を聞きなながら、熱燗をいただくのもオツなものです。そうそうここは「ラジオ少年」でした。青少年の皆さんは、熱い「ミルク」で我慢して下さいね。