NEW AMP−1製作記

加筆 AMP-1DX(X)

原   恒 夫


1 NEW AMP−1の構想にあたって
 「ラジオ少年」の発足の翌年の平成18年、初心者の方を対象に旧AMP−1キットの頒布を開始しました。出力に6AQ5シングル、低周波増幅に6AV6というシンプルな構成のこのキットは、多くの方々から喜ばれました。5球スーパーラジオの低周波増幅部だけというこのアンプには、ラジオ製作に使い回しがきくパーツばかりを使っていました。但し、OUTプットトランスも5球スーパーラジオ用のOUT−2を使用したため、高域も低域も力不足で、HiFiアンプとは言い難いものでした。しかし、発売2年間で200セットと「ラジオ少年」のヒット商品となりました。しかし、もう少し良い音で、そして、欲張りですが、もっと安く出来ないか−−−という思いがありました。きっと旧AMP−1を製作された皆様も同じ思いだったと思います。

2 音はどこで決まるのか?
 いろいろ試作して、アンプの特性を決めるのは、球や回路にもありますが、大きな要素となるのは、出力トランスだということがわかってきました。旧AMP−1の回路や使用部品は同じでも出力トランスを良い物に変えると、高域や低域の出方はもちろん中域の音も、ふくらみのある良い音が出て来るのです。もちろんスピーカーによっても大き音は変わりますが、スピーカーをドライブするアンプの出力トランスの大切さを実感したところです。しかし、一流メーカーの出力トランスは、1個1万円以上、数万円はするというものばかりで、「ラジオ少年」の目指す低価格アンプはとても実現しそうにありません。

 しかし、あるとき中国の本当に小さなガレッジ工房のような会社のアンプを試聴して驚きました。良い音がするのです。価格は、ステレオアンプで2万円から5万円と安いものばかりでしたが、音は良いのです。
 「出力トランスは、どこの会社のものですか?」
 「私のところで作っているのです。作っているところをみてみますか?」
 ショウルームの裏の部屋に小型の巻き線器があり、これで巻いているとのことです。コアもオリエントコアとか特殊なものでなく電源トランス用を使っているようですが、どうしてこんなトランスから良い音が出るのでしょうか。
 私は、早速トランスを分けてほしいという希望を話しますと、なんとOKとのことです。
 そうして、送られてきたのがNEW AMP−1に使われているBT−OUT−5DXでした。BT−OUT−5DXは、私が中国で試聴した音と同じ音を出してくれました。しかも価格は格安での提供です。この出力トランスに合わせ、NEW AMP−1は、設計され1万円と少しで頒布の運びとなったのです。

3 格安設計のための工夫
 価格を抑えるため、

 1 省略出来る回路、部品は徹底的に省略する
 2 電源トランスは、旧AMP−1より一回り小さい物を使う
 3 シャーシーも出来るだけ小さくして、価格を抑える
 
 などの合理化を図り、NEW AMP−1 は、教材用に購入しやすい価格である、原価ぎりぎりの12,600円(税込み)で頒布が決まりました。部品の省略によって音への影響は出来だけないよう十分配慮をしました。外観は、アルミシャーシーのやや貧弱ですが、「安く頒布」という基本方針を崩さないためには、しかたのないところです。アルミシャーシーは、組み立て前に黒のラッカーなどで塗装をしますと、品格が上がるかと思います。部品を100パーセント輸入していますので、円が90円から安くならないよう願うばかりです。

4 アンプ製作の基本の一点アース
 高い増幅のため手近なシャーシーにアースを取ると、組み立て当初はともかく、時間の経過とともにアルミシャーシーの表面の酸化などで、接触面に抵抗が出来て微弱な電圧が発生します。これが原因不明のハムやノイズとして出てきます。このためアンプ製作の定石として、アース母船を張り入力端子の近くでアースを取ります。(一点アース) アース母船は、太めの線をできればつなぎ合わさせない1本の線で張り回します。そして、入力ピンの近くでしっかりシャーシーにアースします。アースを落とす場所は、塗装をしている場合は、地がみえるまでしっかりヤスリをかけます。卵ラグなどを使い、ネジ締めもしっかり締めておきましょう。

シャーシーへの接地は1点で

5 部品の取り付け

AMP−1の部品1台分です ビニールをはがし軽い部品から取り付けます
 真空管のピンの方向に要注意です トランスには傷防止の「帽子」をかけておきます


 部品の取り付けは、軽いパーツから順次重いパーツをつり付けます。平滑回路のラグ板のようにトランスの陰になりビスが取り付けにくくなるところもありますので注意が必要です。それぞれの部品は、取り付け方向を間違うと後々配線が困難なになります。真空管ソケットの取り付け方向は、とても大切ですから写真を参考にされて下さい。
 電源トランスの取り付けは、トランスのビスの位置を木槌などで軽くたたいてシャーシーの穴に合わせます。シャーシーの穴の位置がくるっているのではなく、電源トランスのビスの方の位置がずれていますので、ビスの方を動かして合わせます。

6 アース母線の配線
 一点アース方式にしますので、はじめにアースポイントを決めます。シャーシーへのアース(接地)は、入力ピンの近くで行います。ここでは、入力ピンの止めビスに卵ラグをつけ、しっかりしめつけてここをアースポイントにします。ボリュームのアースやヒーターの片側をアース母線につなぐのを忘れるとハムに悩まされますの注意しましよう。

+
黒い線がアース母線で、青い線がヒーター

7 配線の手順

 後はどこから配線してもよろしいのですが、出力トランスのリード線が長いまま出ていて邪魔なので、使わない線は短く切り、先にエンパイヤチューブをかけておく、端子に半田付けしてしまうなどの処理をしておきます。各真空管へのヒターへ6.3Vを引き回します。ヒーター回路のどの位置でも結構ですから、片側をアース母線へ落とします。(簡易ハムバランサーは、中止しました。)

極性に注意する部品は、
 ・ダイオード  交流の入力は〜の印で、出力の高圧の直流B+は、+です。そして、−は、アース母船に落とします。
 ・電解コンデンサー 400V 100μFと33μFは、被覆のビニールの印刷に−の印刷があるのが−です。+の方にはなにも書いていませんが、出ているリ  ード線が長いです。
 ・真空管のカソードに入っているコンデンサー10μFと47μFも+−の極性がありますから注意が必要です。

8 配線後の確認と試聴
 配線がおわりましたら、もう一度配線忘れがないか回路図を見ながら確認して下さい。確認しましたら、念のため高圧回路だけはショートしていないか平滑回路の330Ωの抵抗付近でテスターでシャーシーと抵抗の間の抵抗値を計ってみましょう。殆ど無限大であればOKで、10kΩ以下のような場合は、どこか+B回路の配線まちがいが考えられます。
 では、適当なスピーカーをつなぎ電気を入れて見ます。ヒーターがついて+Bに高電圧が出てききます。テスターを直流電圧にして、各部の電圧を測ってみましょう。おおむね回路図に記載の電圧がかかっていれば、OKです。電圧がかかっていない場合は、ダイオードの接続ミス、平滑回路の配線ミスなどが考えられます。 6AV6のグリッド(1番ピン)にドライバーなどを当てるとビーという音がでれば、配線はまちがいないでしょう。

 早速CDプレヤーをつないで、音を出してみましょう。2W+2Wとは言え、結構な音量があることがわかります。音質はなかなか良いですね。大型出力トランスの真価が発揮出来ています。「1万円と少しで、こんなに良い音が出るのか!」と感心されることでしょう。
 出力を上げるため、3極管接続から5極管接続に変更すると、電源トランスの容量不足します。5分や10分の5極管接続のテストは、問題がありませんが、長時間は、電源トランスの発熱など問題が起こります。5極管接続と3極管接続では、やはり3結の方が音の方がはるかに良い音がします。
 出力トランスの重要性を書きましたが、最後はやはり「良いスピーカー」です。このアンプは、小出力ですから、音質だけではなく「能率の良いスピーカー」を選ぶ必要があります。
 
 初段の6AV6とピン配列が同じで差し替えのきく、増幅率の低い6AT6と差に変えてみました。やはり増幅率が低いので、ボリュームの位置を少し上げなければならないのですが、音はかなり変わりました。おとなしい感じですが、音の柔らかさは6AT6に軍配が上がりそうです。製作された皆様も是非一度6AT6に差し替えて音の違いを確かめてただきたいと思います。また、初段管を6AU6やその他の5極管を3結にしてみてはいかがでしょう。それぞれ、特徴のある音がすると思います。電力増幅の6AQ5/6005は、6AR5に変えられますが、足ピンの配置が異なるので注意が必要です。6BQ5など大きな球への変更は、電源容量が小さいので出来ません。

 平成20年4月から、より低域特性の良い出力トランスBT−OUT−6DX(一次インピーダンス3.5kΩ、5kΩ)を載せたAMP−1DXの頒布を開始しました。


   サイドパネルが標準装備になりました

9 4極管接続のAMP-1DXXで最大パワーを出す

 AMP-1やAMP-1DXの電源トランスでは、容量不足で実験が出来ていなかった、6AQ5(ビーム4極管)を4極管のままで使うとどうなるのかということを考えていました。
 6AQ5/6005は、プレート電圧を250Vで5極管接続では、4.5Wを出せる球です。AMP-1で、電源トランスの電圧と電流を大きくして、最大パワーを出して見ることにことにしました。B+を250Vを得るため電源トランスの高圧を20V高くし、電流容量も100mA程度がとれるように、かつ、電源トランスの取り付け穴の大きさを変えない、つまり、コアの厚さだけを厚くしてトランスの容量を上げることが出来ないかトランス屋さんに相談したところ、「可能」との回答を得ました。

 さっそく、パワーアップした電源トランスを載せ、4極管接続で動作させてみますと、迫力が格段に違うアンプになりました。特に高域がのびた感じで、ジャズも明瞭度が上がったように感じました。6AQ5/6005のプレート電圧は、246V〜250Vとほぼ最大定格の電圧がかかっています。どうも最大定格で使うには、抵抗があるという方は、電源トランスの高圧のタップを200V端子を使います。すると6AQ5/6005のプレート電圧は、230V程度になります。

 6AQ5/6005のスクーリングリッド(G2)へ、直接B+を給電すると完全な4極管接続となりますが、出力トランスの3.5kΩ端子を通して、G2につなぐと、UL接続もどきとなり、かなり3結に近い丸みのある音になります。出力も5結と3結の中間になります。実験されてみることをおすすめします。


 AMP-1シリーズには、
 AMP-1Jr  出力トランスを一回り小さくしたBT-OUT-11を使用した廉価バージョン
 AMP-1DX  3極管接続で、大型出力トランスBT-6DXを使用したバージョン
 AMP-1DXX 電源トランスの容量も増やし、4極管接続で6AQ5/6005の最大出力4.5W+4.5Wを出すバージョンの3タイプを頒布しております。予算に合わせてお求め下さい。