実践標準型5球スーパーの製作
筆者 ラジオおじさん JA8ATG 原 恒 夫
1 5球スーパーが我が家にやって来た
5球スーパーが我が家にやって来たのは、昭和27年私が小学4年の時です。木製キャビネットのそのラジオは、父が深川(現在の深川市)のラジオ屋さんから大事そうに背負って来たのです。深川から芦別行きのバスに1時間乗って最寄りのバス停に降りて、重いラジオを風呂敷にくるんで背負い30分も歩いて我が家にたどり着いたのです。そんなに豊かな生活でなかった我が家では一流メーカー品は買えなかったようで、私の知らないメーカーのラジオでした。ずっと並四ラジオを使っていた我が家にとって大事件で、ブラウン管式テレビが大型液晶テレビに変わったようなものです。並四に比べ、感度が遙かに良い、分離が良い、マグネッチクスピーカーからダイナミックスピーカーに変わったので音がめちゃくちゃに良い、調整が楽だというかダイヤルつまみさえ回せば聞こえるなど良いことずくめです。
ラジオ少年だった私は、暇があるたびにラジオの裏を覗いていました。
「僕もスーパーラジオを作るんだ!」
とスーパーラジオの製作記事に夢を追いかけていました。
そして、数年が過ぎてついにその時がやって来ました。中学1年になってすぐ父が「科学教材社」に注文してくれたのです。大きな荷物はまもなく届きました。すでにMT管の時代になり6BE6、6BA6、6AV6、6AR5、5MK9というごく標準的な5球スーパーでした。学校から帰ると宿題もそこそこにラジオ作りに没頭しました。約1週間で5球スーパーは完成しました。しかし、始めての5球スーパーの感度は、どうもよくありません。今考えるとIFTの調整もトラッキングもうまく調整が出来ていなかったためでしょう。そのため古くなった家のラジオに比べると感度が悪いのです。そこで、屋根に上がって、アンテナを建てました。L型のロングワイヤーです。アースも窓下に穴を掘り炭を父母にはないしょで物置から持ち出し1俵近くを埋め込みました。このアンテナとアースで感度の悪い自作の5球スーパーにも全国の放送が入るようになりました。ラジオ東京、日本放送、大阪放送、九州朝日放送などがダイヤルせましと入って来ました。「初歩のラジオ」(誠文堂新光社)には、BCLの記事が載っており、放送局へのBCLレポートの出し方のとおり放送局に送ってみると綺麗なBCLカードが届きました。そんな時、父が深川のラジオ屋さんから短波アダプターを買ってきました。私の夢は、世界へと広がったのです。
2 5球スーパーを安く作りましょう
5球スーパーラジオのキットそのものが殆ど市販されていません。それでもHPをさがしてみると何社からかキットが売り出されていることがわかりました。しかし、価格は安いところで29,000円、高いところでは70,000円もします。これでは、青少年のお小遣いの範囲ではとても無理な金額です。いえ青少年だけでなくおじさんにも無理です。
「よし、10,000円で作るぞ!」
おじさんは、おばさんに宣言しました。おばさんは、
「なんのはなし?」
とまたよからぬ計画をたてたなという顔です。
安くする具体的方策
1 整流管を諦めて、ダイオード整流とする。
2 検波もダイオードにする。
3 低周波増幅を価格の高い6AV6をやめ安い6BA6にする。
4 アンテナコイル、OSCコイルは自作する。
5 周波数変換を6BE6から安い5極管にする。
6 バッテングコンデンサーのいらない親子バリコンを使う
これらを考え、試作をくりかえしました。ほとんでは実現しても感度や出力が低下することがなく製作で出来ました。5の周波数変換を安い5極管の6BA6にやらせたのですが、局部発振がスムーズに発振しない、また、感度低下がひどいなどすぐには5極管の採用は難しいことがわかりました。さすが周波数混合管として開発された6BE6は使いやすい球だいまさらながらと感心しました。
では、具体的な主な部品の予算を立てましょう。
パーツ名 | 数 量 | 価 格 |
シャーシー | 1 | 800円 |
真空管 | 4 | 1,500 |
バリコン | 1 | 600 |
アンテナコイル(キット) | 1 | 300 |
OSCコイル(キット) | 1 | 300 |
IFT | 2 | 1,500 |
電源トランス | 1 | 1,700 |
出力トランス | 1 | 600 |
ボリューム | 1 | 150 |
CR類 | 30 | 500 |
電解コンデンサ | 1 | 800 |
真空管ソケット | 4 | 400 |
合 計 | 8,950 |
その他、スピーカーとかビスやナット、ラグ板など多少の出費がありそうですが、10,000円でなんとかなるかもしれません。最悪スピーカーは、手持ちのジャンクを使わなければならないかもしれません。いかがでしょう。皆さんのお近くのパーツショップでこの予算で主要部品がそろいますか?ご心配なく揃うんです、WEB SHOP 「ラジオ少年」 URL http://www.radioboy.org で、この価格で頒布しているのです。無論手持ち部品は、大いに活用して製作費を落としましょう。
3 製作の実際
シャーシー加工 穴の空いてないアルミシャーシーを購入して、自分の好みに部品を載せ、穴開け加工をしましょう。ハンドドリルとシャシーリーマーだけで加工できます。
ANTコイルの製作 直径25mm程度のボビンに0.2mmのホルマル線を巻きます。コイルのデーターは、別表1の通りですがあまりシビアではありません。ラフに作って結構です。
160pFのポリバリコン 巻き数 235回 540μH |
230pFのポリバリコン 巻き数 180回 350μH |
290pFのエアーバリコン 巻き数 135回 275μH |
430pFのエアーバリコン 105回 200μH |
局部発振コイル(OSCコイル) フェライトコアで作るときのデーターは別表2の通りです。コアは、アミドン82−#43 ホルマル線は、強度を持たせるために太さ1mmを使いました。このコアは1ターンが約10μHです。ですから巻き数1回がが発振周波数に大きく影響します。インダクタンスの調整は、1ターンずつほどいて調整しますので、表のデーターより2回多く巻いておきます。調整時にカット&トライします。直径17mm程度の塩ビパイプを使ったソレノイドコイルでも全く問題なく作れます。小型化にこだわらない場合は、ソレノイドコイルで問題ありません。詳細は「実験 局部発振コイル」で紹介しております。
430pFバリコンとバッテングコンデンサーの組み合わせ | 親子バリコンの子側120pFを使った場合 |
巻き数 15回 115μH | 巻き数22回 225μH |
IFT 秋葉原でも通販でもみつからなくなりました。WEB SHOP 「ラジオ少年」から購入します。
バリコン WEB SHOP 「ラジオ少年」 の親子バリコンを使いました。
電源トランス、OUTPUTトランス これもWEB SHOP 「ラジオ少年」 頒布を使います。電源トランスは、T−2の60mAを使いましたが、整流管を使っていないため、T−1の40mAでも使用可能です。このラジオのB+の送電流は、実測で40.5mAでした。
配 線 アース母船、ヒーター配線を先に済ませます。後は、電源回路、低周波増幅回路、周波数混合と中間周波増幅回路と進みます。電源回路が出来たら一度電源を入れB+が正常に出るか確認しておきます。低周波増幅回路も出来たら各部の電圧を測定してみます。第一グリッドにドライバーでさわると「ブーン」と音がでますか。出なければ誤配線や未配線がないか確認しましょう。
OSCコイルは、フェライトコアで作った場合は、ラグ板などに固定するよう半田付けして、振動しても動かないようにします。
OSCコイルのあたりです | シャーシー裏面です |
調 整 7石スーパーラジオとほぼ同じです。
テストオシレッターがある場合 変調をかけて455kHzを出して各IFTを2〜3回調整します。テストオシレッターの出力は、信号がぎりぎりが確認出来るくらい弱くして調整します。3個のIFTの調整がとれたら以後いじらないようようにします。
つぎにOSCコイルを調整します。ダイヤルを回し最低受信周波数にバリコンを回します。テストオシレッターを500kHzから1600kHzに切り替えて、この状態で何kHzが受信できるか確認します。最低受信周波数が540kHz程度であれば、そのままで成功です。しかし400kHz代が受信出来るときは、OSCコイルの巻き数が多いので1ターンほどきます。あまったホルマル線は、切り取ります。再び最低受信周波数を調べます。表のデーター+2回巻きの場合、1〜3回ほどくことによって最低受信周波数は、ほぼ540kHzにする事が出来ます。なにせ1ターンほどくと約10μHと大きく容量が減少するため、20khz〜50kHzも受信周波数が変化してしまいます。10kHz位まで細かく調整したい場合は、AL値の低いコアを使わなくてはなりません。微調整出来る代わりに巻き数は50回とか沢山巻くことになります。
次にバリコンを回し最高受信周波数を確認します。1600kHz位まできこえれば良いのですが、例えば1500kHzまでしか聞こえない場合は、バリコンとOSC側のトリマーを回して、1600kHzまで聞こえるようにします。この時、アンテナコイル側のバリコンのトリマーを回し1600khz付近が最高感度になるように調整します。
調整の勘所は、低い周波数合わせはOSCのホルマル線の巻き数で調整して、高い周波数合わせははOSCバリコンのトリマーで合わせることです。高い方の感度調整は、アンテナバリコンのトリマーで最高感度の合わせます。それから一度きちんとIFTを455kHzに合わせたら以後IFTのコアを回さないことです。
テストオシレッターのない場合
バリコンを回してなにか信号を受信して(ノイズでもなんでも)IFTの調整します。ある程度感度が上がったら、もっと弱い信号を見つけて、もう一度3個のIFTをコアを回して最高感度にします。
次に周波数のわかっている低い周波数を受信してダイヤルの適当な位置で受かるか確認します。。適当な位置で受からないときは、OSCコイルのホルマル線を1ターンずつほどいて合わせます。次は、高い周波数(1000kHz以上)の周波数のわかっている周波数を受信して、ダイヤルが適当な位置にくるようにOSCバリコンとトリマーで合わせます。高い周波数の感度調整は、ANTバリコンのトリマーで最高感度に合わせます。
4 感度アップ作戦
製作したアンテナコイルは、一般的なローインピーダンスタイプですから、少し電界の弱い地域ではアンテナ線を2m〜5m位つける必要があります。このアンテナコイルをハイインピーダンスタイプを作るにはハニカム巻きにする必要があり素人には作ることが出来ません。そこで、アンテナを付けなくとも感度を上げるには、バーアンテナを使います。これもWEB SHOP 「ラジオ少年」で頒布している物です。バーアンテナに取り変えてみますとすごく感度が上がったのが解るでしょう。調整は、コイルの位置でインダクタンスが大幅に変わりますので、低い周波数を受信してバーアンテナのコイルを左右に動かしてインダクタンスを変化させ、最も感度良く聞こえる位置に固定します。これでOSCとのトラッキングを取れたことになります。
バーアンテナは感度は上がりますが、欠点は8の字指向性が強く出ることです。試しに何処か遠くの(弱い)放送を受信してラジオをぐるっと回してみましょう。はっきり指向性が出ていることがわかりますね。
5 1万円キットの設計
先に書きましたように青少年の皆さんのお小遣いでもなんとか製作出来るよう経費を出来るだけ押さえたキットの開発に取り組みました。たぶん青少年の皆さんには十分な金属加工の工具がないということを想定すると、穴開け加工済みのシャーシーを用意しなければならないでしょう。
元技術科の教員のおじさんとしては、
「穴開け位い自分でやれ!」
と言いたいところですが、シャーシーパンチ、リマー、ヤスリなどの出費を考えるとそうもいかないのでしょう。
「でも、本当は、部品をならべ自分の好きなように部品配置をして、穴を開ける。これが楽しいんだが−−−。」
とは、おじさんの独り言です。
時代のはやりの「バーチャルシャーシー加工」にしましょう。
続く