実践7石標準スーパーラジオの製作
筆者 ラジオおじさん JA8ATG 原 恒 夫
1 トランジスタとの出会い
トランジスタを初めて手にしたのは、私が中学2年の昭和32年だと記憶しています。すでに町のラジオ屋さんには、真空管式ポータブルラジオの並ぶショーウインドウの最前面に小さなトランジスタラジオが並び始めていました。「初歩のラジオ」はじめラジオ雑誌には、東通工のトランジスタラジオやミツミのポリバリコン、IFTが広告されはじめていました。製作記事も載り始め時代が変わっていくのが実感としてわかりました。当時2Tシリーズの東通工のトランジスタは、安いものでも1000円、fT(使用出来る最高周波数の目安)の高い物は4000円くらいはしていはしていたと思います。fTが高いと言ったところでやっとBC帯に使える程度であったと思います。私たち中学生の小遣いは、500円から1000円でとてもトランジスタを買える身分ではありませんでした。毎度私がトランジスタラジオの製作記事を読んでいるので、ある時父が「科学教材社に注文しなさい」と言って2万円の大金を出してくれたのです。公務員の父にとっては、一月分の月給に当たる金額です。私は、嬉しいと同時に驚いてしましました。とにかくありがたい資金援助なので、早速科学教材社に4石トランジスターラジオの製作記事のとおり注文しました。
半月もしたころに一式が届きました。いつかの失敗のように梱包の紙くずと一緒に部品をなくさないように丁寧に小包を開けました。小包の大きさに比べ、4石ラジオの部品は、片手に全部載ってしまうような量でした。とにかくこれまで見てきたラジオの部品と大きさがまるで違うのです。キャラメルくらいしかないポリバリコン、もっと小さいIFTにOSCコイル、P型抵抗、5cm位しかないバーアンテナ、吹けば飛ぶような大きさの出力トランスなどです。トランジスタは、ネズミ色の小さな物体で、雑誌で見るのとは随分違っていました。
1週間くらいで4石トランジスターラジオは完成しました。イヤホンでしか聞けませんが、夜中には東京や大阪の放送がはっきりと聞こえて来ました。当時のトランジスタはーはノイズが多く、電源を入れると「サー」とノイズが聞こえていました。これが私がトランジスタと出会った最初でした。
それから1〜2年でNECや松下電器から1000円以下のトランジスタが出てきて、1石、2石、6石などのラジオキットが街のラジオ屋さんでも出回るようになりました。ラジオ雑誌も各種のラジオやアンプ製作記事が沢山載るようになりました。私のラジオ作りも一層熱が入ってしまいました。高校1年になって近所のラジオ屋さんから頼まれて、トランジスタラジオの修理のアルバイトをすることになり、これが自分にとって勉強にもなりましたし、結構良い収入になったのです。「趣味と実益」と自分では思っていましたが、結果として勉強に身が入らず、高校の成績は散々でした。
2 実践7石標準スーパーラジオの製作
回路図はこちら
標準的な回路でとりたてて説明することはないかもしれません。完全キットで、タイの最大のキットメーカーのもので WEB SHOP 「ラジオ少年」 で頒布しているものです。ケースは付いていませんので、100円ショップなどで適当なケースを求める必要があります。回路は、OTLになっているので、1石余計にトランジスターを使って、7石になっています。ICは使っていませんので、各部の動作がわかって青少年の皆さんにとってはとても良い教材だと思います。
どこから作り始めてもかまいませんが大まかな手順を書いておきましょう
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配線図と全く同じ部品配置 |
余った線はカットします |
プリント板上の部品が付きました |
1 抵抗のカラーコードを読んで抵抗値を確認します。コンデンサーも全部あるか確認します。
2 抵抗、コンデンサーをシルク印刷にしたがって差し込みます。コンデンサーの極性に注意しましょう。
3 抵抗とコンデンサーを半田付けして、余ったリード線をニッパで切ります。
4 IFT、OSC、など基板の上に乗っかる部品を所定の位置に差し込みます。IFTとOSCは確認して差し込みます。
5 IFT、OSCコイルなどを半田付けします。
6 トランジスタ、ダイオードを基板に差し込みます。あまり差し込まないで、IFTの高さに合わせます。
7 トランジスタ、ダイオードを半田付けします。
8 プリント基板の半田付けをよく見て、ブリッジや半田付け不良がないか確かめます。
9 外付けのバーアンテナ、スピーカーなどを付けます。
10 電池を付けて軽いサーというノイズが出ているか確認します。ボリュウームの端子にドライバーなどで触れてガリガリと音がでればOKです。
11 音が出てこなければ、各トランジスタのコレクターに電圧がかかっているか確認します。
12 未調整でも近くの放送が入れば合格です。
3 調 整
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私は、デップメーターで調整 |
テストオシレッターがある場合 変調をかけて455kHzを出して各IFTを2〜3回調整します。テストオシレッターの出力は信号がやっと確認出来るくらい弱くして調整します。3個のIFTの調整がとれたら以後いじらないようようにします。
つぎにOSCコイルを調整します。ダイヤルを回し最低受信周波数にバリコンを回します。テストオシレッターを500kHzから1600kHzに切り替えて、この状態で何kHzが受信できるか確認します。OSCコイルのコアを回して最低受信周波数540kHzが聞こえるようOSCコアを回して受信できるようにします。それからバーアンテナのコイルを左右に移動させて一番感度が上がる位置に固定します。
次にバリコンを回し最高受信周波数を確認します。1600kHz位まできこえれば良いのですが、例えば1500kHzまでしか聞こえない場合は、ポリバリコンとOSC側のトリマーを回して、1600kHzまで聞こえるようにします。この時、アンテナコイル側のポリバリコンのトリマーを回し1600khz付近が最高感度になるように調整します。
調整の勘所は、低い周波数合わせはOSCのコアで調整、感度はバーアンテナのコイルの位置で最高のところを見つけます。高い周波数合わせははOSCバリコンのトリマーで合わせることです。高い方の感度調整は、アンテナバリコンのトリマーで最高感度の合わせます。それから一度きちんとIFTを455kHzに合わせたら以後IFTのコアを回さないことです。
テストオシレッターのない場合
バリコン回してでなにか信号を受信して(ノイズでもなんでも)IFTの調整します。ある程度感度が上がったら、もっと弱い信号を見つけて、もう一度3個のIFTをコアを回して最高感度にします。
次に周波数のわかっている低い周波数を受信してダイヤルの適当な位置で受かるか確認します。感度調整は、バーアンテナのコイルを動かし最高感度にします。次は、高い周波数(1000kHz以上)の周波数のわかっている周波数を受信して、ダイヤルが適当な位置にくるようにOSCバリコンとトリマーで合わせます。高い周波数の感度調整は、ANTバリコンのトリマーで最高感度に合わせます。
4 低い周波数の感度が悪い
私の場合は、デップメータで中間周波数455の調整、そして、600kHz、900kHz 1500kHz当たりでトラッキング調整を済ませました。回路や部品が正常であれば、これで調整は完了です。ところが高い周波数の放送局はガンガン受信できるのですが、NHK札幌第一放送567kHzが極端に音が小さいのです。このようにトラッキングを取っても周波数のよって感度差のある場合は原因として
1 親子バリコンの場合は、設計が悪いのでトラッキングが取れない。バリコンそのものが悪いのでバリコンの交換が必要です。強引にやるなら局発バリコンの羽根の加工が必要です。
2 局発と同調回路とが同じ容量のバリコンの場合は、バッテングコンデンサーの値が合っていないので再調整が必要です。
3 アンテナコイル容量ととアンテナ側のバリコン容量がが受信可能な周波数に同調していない。バリコンかアンテナコイルを取り替えます。
このような感度差が出る原因が考えられますが、このキットの場合アンテナコイルがホルマル線どうも巻き数が少ないように思いました。ディップメーターでバリコン容量を最大にして同調周波数を測定してみますと最低同調周波数は750kHzでした。これでは低い周波数の感度が悪いわけです。早速バーアンテナをはずしてアンテナコイルの容量をLCメターで測定すると260μHしかありません。ポリバリコンのアンテナコイル側の容量は160pFですからBC帯の540kHzまで同調させるには450μH程度が必要です。
そこで、アンテナコイルを巻き替えることにしました。最小の線より細めの0.2mmの線をコイルの紙枠のぎりぎりまで巻いてフェライトコアをいれてコイルの容量を測ってみます。約100回ほどコイルを巻けましたがインダクタンスは600μHでした。そこで160pFのポリバリコンに合わせて80回巻きの450μHにします。
そして。再びバーアンテナのコイルをプリント基板に半田付けします。こんどは、札幌第一放送567kHzもばっちりです。デップマーターでアンテナコイルの最低同調周波数を調べてみると540kHzでした。これで放送バンドの540kHz〜1620kHzまでが、ほぼカバー出来るようになりました。メデタシメデタシです。
5 雑感
これだけのキットが1500円というのも驚きました。配線図がそのままシルク印刷でプリント板になっていて、いま自分が回路図のどこの部品を半田付けしているかが理解出来ますので大変良い教材だと思います。そのため合理的な部品配置が出来ず小型化は出来ないのは仕方の無いことです。よく市販のキットで部品配置や小型化を優先したものがありますが、製作者は、いま自分が回路図のどの部品を取り付けているかがわからないまま完成してしまうということがままあり、教材としては感心しません。これは私が、長年中学校の技術科の教員としての経験からの意見です。
アンテナコイルの容量不足ですが、このキットを発売した頃には設計者の意思がきちんと生かされていたのでしょうが、生産を続けているうちに初期の部品がなくなり代わりの部品を採用した際に、知識不足の方が現在のバーアンテナを形が似ているから問題ないと思いこんで採用したのでしょう。早速私は、このタイのメーカーに手紙を書いて改善をお願いしました。